(前回の記事は こちら

海外暮らしや親子留学をする人にとって、もはや都市伝説級のごとく広く流布している「子どもは適応力が高いから英語もすぐ話せる」説。前回は、それはたしかにウソではなく、どちらかといえば本当かも、というお話をしました。

セブに来て、現地の幼稚園に通い始めて3ヵ月を過ぎると、息子の英語力はめきめきと上がっていきました。もう親もびっくりです。通園途中にすれちがうフィリピン人に「Hi, Baby. What's your name?」なんて声をかけられても、余裕のスマイルで「Hi, I'm ×××」と返答。そして時には右手でハイタッチ。「なんという余裕……これがバイリンガルの底力か……」。我が息子ながら、非バイリンガルの母はおもわず賞讃のまなざしを送ることもしばしばでした。

だってですよ。私が「What is your name?」なんてフレーズに最初に触れたのは、中学1年生(13歳)のときの英語の教科書ですよ。息子に遅れること10年のビハインドですよ! 10年! しかも英語の教科書なのに、なぜかケニア人の男の子と女の子が出て来て「ジャンボ! ハバリ!」ってスワヒリ語のあいさつまで覚えさせらたんですよね。その「ジャンボ!」があまりにも強烈で、30年ぐらい経った今でもしっかり覚えてる。「ジャンボ」と言ったら「ハバリ」と返す。ほかの大事な文法はすっかり忘れたのにこのジャンボとハバリだけはなぜか忘れない。人間の記憶ってほんとうに理不尽ですよね。
mukami
英語界の有名人ムカミさん。日本での知名度ハンパない。


息子の言った「エンジョー」が本気でわからない


で、ジャンボはさておき、息子の英語力の話でしたね。

ある日のこと、我が家でちょっとした事件が起きました。まあ、事件ってほどでもないんですが、母としてはかなり衝撃だったので、みなさんにもシェアしてみたいと思います。

その日、私は幼稚園から帰って来た息子に、何気なく聞いてみたんです。「今日は幼稚園で何してきたの?」と。すると息子は元気に「えーとね、お絵描きしたよ。エンジョーの」。

なるほど。エンジョーね。エンジョー……エンジョーって何よ?

前頭葉から海馬まで、あらゆる脳内の領域を必死にサーチしてみたんですが、わたしの頭の中に「エンジョー」的な英単語のストックはみつかりません。File not found. 完全に404です。エンジョーって何ー??? ここは恥を忍んで3歳の息子に、最高にこびへつらう感じで聞いてみました。

「えーと、ママ、エンジョーって何だかわからないな。教えてくれるかな?」

ところが息子は困った顔をした挙げ句、若干驚きというかあわれみというか、なんかそういう感じの目で「エンジョーはエンジョーなんだけど」と。そしてこともあろうか、こう続けたのです。

「ママ、知らないの?」

ママ、知らないの? ママ、知らないの? ママ、知らないの……? まさか我が子に、こんなことを言われる日が来るとは……。もちろん悪い意味で。思春期になって「クソババア!」とか言われるのも辛いだろうけど、これはこれでつらい。3歳児にアホだと思われるのは、正直つらい。

で、夫も動員して「エンジョー」の解明に向けてがんばってみたんですけど、結局わかりませんでした。そして次の日。幼稚園に子どもを送ったついでに学校の先生にきいて、ようやくエンジョーの謎が解けました。

私「昨日、息子がお絵描きしたっていうんですけど、何を描いたんですか?」
先生「みんなで天使(angel)の絵を描きましたよ」

なんとーーーー! 答えはまさかの「エンジェル」でした。エンジョーとは、エンジェルであって、エンジェルにあらず。カタカナ読み夫婦は、そろって息子の発音する angel を聞き取れていなかったわけです。

そこで判明したのですが、息子は angel という英語は知っているけど、日本語の天使という単語はまだ覚えてなかったんですね。だから親子間で、ディスコミュニケ—ションが起きてしまった、と。それが、私にはものすごくショックだったんです。私はそれまで勝手に、息子の英語と日本語は同じ速度でレベルアップしてると、根拠なく思い込んでいたんですね。それが、そうじゃなかった、と。

海外で英語漬けの環境で子育てしている以上、今後こういうことがもっと増えるのは明白です。今回はエンジョーぐらいで済んだからいいものの、もっと基本的な会話の部分で親子がわかりあえない状況になったら、それってものすごくマズいですよね? どうするんですか。子どもが思春期になって日本語の「クソババア!」じゃなくて英語で「クソババア!」的なことを言って来たら。お母さんの私は「クソババア」言われてるのに、わからない。わからないから、たぶん言われても半笑いですよ。そんなんで、どうやって子どもをしつけたり教育すればいいのか……。

バイリンガル教育っていうのは、私が考えていたより、はるかに難しくてハードルの高いものなのかもしれない。そう悟った瞬間でした。


つづく。


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