(前回の記事は こちら

バイリンガルになるためには母語である日本語をしっかり身につけることが大事 ということで、今日は「母語」について考えてみようと思います。
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Photo by Psoup216


さて、英語を学んだことがある人ならみんなわかると思うんですが、外国語(英語)の勉強ってほんと大変ですよね。文法を覚えて、ボキャブラリーを増やして、正確な発音をマスターして……。「もうコレなんの修行? 前世の業?」って思いたくなるほど難しい。だからみんな挫折する。これまで日本では、おびただしい数の人々が英語の習得を決意しては挫折する、という歴史が繰り返されてきました。「今日から英語学習ブログはじめました!」と威勢よく始めたものの、いつしか更新が途絶え、放置されまくりのブログも数知れず。そう、日本における英語学習は、まさにダイエットと双璧をなす「挫折界の二大巨頭」といっても過言ではないのであります。

ところがその一方で、日本語(母語)の獲得に失敗した人っていうのにはめったにお目にかかりません。ぶっちゃけ日本語は世界でもまれにみる難しい言語らしいのですが、まあ、みんなふつうに使えますよね。多少の誤用はあっても、ほとんどの日本人はとくべつな苦労なく日本語を自然に使えるようになっているわけです。

なぜかといえば、日本語は私たちの母語だからです。母語っていうのは、こどもが一番はじめに触れる言葉であり、生活の中で自然に身についていく言葉のことです。そのため、第一言語(L1)なんて呼ばれたりもします。つまり、子どもにとって「いちばん慣れ親しんだ言葉」ということができます。

子どもが言葉を話し始めるのは、生まれてから1年ぐらいかかるといわれていますが、なんと人間はお母さんのお腹の中にいるときから、母語を聞き分け、親しんでいるというのです。例えば、生後2日目の赤ちゃんにおしゃぶりを吸う速度で母語と母語以外の会話のうち好きな方を選べるようにした実験*では、赤ちゃんは母語での会話を選ぶんだそうです。生まれてからたった2日で、もう母語と母語じゃない言葉を聞き分けるってすごいですよね。

* "Two-days-olds prefer their native language" (Moon, Cooper, & Fifer, 1993)

生まれた後の赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で聴いていた「心地よいリズム=母語のリズム」を、さまざまな体験を通して、今度は「言葉」として理解していきます。その母語を覚えていくプロセスには、外国語(第二言語)をマスターする、つまりバイリンガルになるためのヒントがありそうですよね? そうなんです。あるんです!


そもそも、母語はどうやって獲得されていくのか?


生まれたばっかりの赤ちゃんは、お腹の中ですでに母語のリズムに慣れ親しんでいたとはいえ、言語能力としてはまっさらな状態です。まさにニュートラル。その状態からスタートして、自分のまわりにあるさまざまな音から、母語を話すために必要な音を選んで、学習していかないといけません。つまり赤ちゃんは、発話を始めるまで1年ぐらいかけて、母語に必要な「音」をものすごく注意深く聴いているというんですね。

ちなみに、ニュートラル状態の赤ちゃんは、まだ母語が定まっていないので、さまざまな音をきき分けることができます。驚きなのは、日本人が超苦手な「R」と「L」の発音も、じつは生後8ヵ月ぐらいまではふつうに識別できてるらしいということ*。まじですかー!

日本人の乳幼児による非母国語音声の弁別能力に関する発達的変化 : アメリカ英語における/r/と/I/および/w/と/y/に関して

ところが、生後10ヵ月〜12ヵ月(1歳)ぐらいになってくると、聞き分けられていたはずの「R」と「L」が聞き分けられなくなってしまいます。なぜかというと、日本語の「ラリルレロ」は「R」でも「L」でもない特殊な音なので、日本語の「ラ」という音が聴こえたときに「え? RとLどっち?」みたいになったら赤ちゃん的には大混乱。効率的に母語(日本語)を身につけるためには、RとLを聞き分ける能力はむしろ邪魔なわけです。というわけで、母語に必要じゃない音は、赤ちゃんの中でどんどん切り捨てられていくんですね。

そうだったのかーーーーー! どうりで いっくら練習しても、ウォーター(カタカナ読み)から脱却できないわけだ。なるほどー。つまり、もう手遅れってことね。本当にありがとうございます。……って納得できるか!

そもそもうちの息子が英語に親しみはじめたのは3歳になってからです。1歳までに母語以外の発音が切り捨てられるなら、なんであいつは「ウォーター」じゃなくて「ワラー」なんだ。ちゃんとRとLを聞き分けてるし、使い分けてる。

ここでもう一つ、おもしろい研究があって、2003年にワシントン大学のパトリシア・クールさんのグループが実施した実験で、英語が母語のアメリカの赤ちゃん(生後9ヵ月)たちに4週間、計5時間にわたって中国語での語りかけをしたらしいんですね。そうしたらなんと、台湾で中国語を習得している赤ちゃんたちとほぼ同じレベルで中国語が聞き分けられるようになっちゃったんだそうです(白井恭弘『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』より)。

これは生後9ヵ月の赤ちゃんの例なので、うちの息子(3歳)にそのまま当てはめるわけにはいきませんが、まだ母語が確立してない小さい子どものうちから外国語に触れさせることが、リスニングと発音にはとても有利に働くのかも、という一つの仮説が立てられそうです。

つまり、小さい赤ちゃんのうちから、日本語だけでなく英語の「音」にも触れさせておくと、子どもは日本語にない英語の音も聞き分けられるようになる可能性があるってことです。

なるほど「小さいうちから英語を聞かせるべし!」みたいな教材が巷にあふれかえっている理由がやっと理解できました。私は今まで「赤ん坊に英語なんか聞かせて効果あんのか」と否定的だったんですが、それなりに根拠があったんですねー。なんだ、そんなことなら息子が赤ちゃんのときからハリウッド映画の掛け流しとかしておけばよかったよ。

でも逆をいえば、保護者がヘタクソな発音で英語の読み聞かせとかするのはかえって危険ってことでもあります。赤ちゃんのうちから英語子育てする場合は、ネイティブ英語を聞かせるのがコツってことなのかもしれません。

そして、ここが一番大事なんですが、子どもは母語を効率よく覚えるために、耳慣れない外国語に対する処理能力をどんどん切り捨ていく、ってこと。つまり、英語どっぷりの環境になれば、どんどん日本語を忘れていくということが、すでに証明されちゃってるんですね。これは先日書いた セミリンガル問題 にも通じるポイントともいえます。

もやもやしていたセミリンガル問題の原因の一つがはっきりしてスッキリ! というわけで、引き続きバイリンガル教育についていろいろ考えていきたいと思います〜

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